「県民葬」損害賠償等請求事件(住民訴訟)
判決データ
- 事件番号
- 令和5(行ウ)3
- 事件名
- 「県民葬」損害賠償等請求事件(住民訴訟)
- 裁判所
- 山口地方裁判所
- 裁判年月日
- 2026年3月18日
- 裁判官
- 秋信治也、石本大地、小西慧
AI概要
【事案の概要】 山口県の住民である原告らが、令和4年10月15日に山口県等によって組織された葬儀委員会等を主催者として実施された故B元内閣総理大臣の県民葬(本件県民葬)について、憲法13条、14条、19条、20条1項及び地方自治法等に反する違法なものであり、その実施に伴う公金支出(本件支出。山口県負担分約2664万円)も違法であると主張した事案である。原告らは、地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき、被告(山口県知事)に対し、当時の知事Aに対して本件支出相当額約5329万円及び遅延損害金を請求するよう求める住民訴訟を提起した。 【争点】 ・本件県民葬の実施が憲法13条、14条、19条、20条1項に違反し違憲・違法であるか ・本件県民葬の実施及び本件支出が地方自治法上「地域における事務」に当たるか、また最小経費最大効果の原則等に反し違法であるか、知事Aが本件支出を阻止しなかったことが裁量権の逸脱・濫用に当たるか 【判旨】 裁判所は、原告らの請求をいずれも棄却した。 まず、本件県民葬の実質的主催者は山口県であると認めた上で、憲法19条・20条1項違反の主張については、山口県が特定故人の葬儀を主催し弔意を表明したことをもって、直ちに個々の県民に弔意を持つことやそれに由来する外部的行為を強制する性質があるとは認められず、反対意見の表明等が可能であったことからも個人の思想形成に具体的影響や萎縮効果をもたらすものではないとした。半旗掲揚の指示についても、職員が職務命令として行ったにすぎず、弔意を表明する主体は県庁等の機関であって職員個人の内心とは関係しないとした。 憲法14条違反の主張については、本件県民葬はBの内閣総理大臣としての事績等を積極的に評価して行われたもので信条に着目した差別ではなく、事績に鑑みた扱いの区別には合理的理由があるとした。憲法13条違反の主張についても、県民の生を消極的・否定的に評価する効果は生じていないとして退けた。 地方自治法上の適法性については、Bの事績を評価して哀悼の意を表することは、県民の郷土への親しみや国内外の関係機関との信頼関係維持増進に資するものであり、社会通念上儀礼の範囲内にとどまる限り「地域における事務」(地方自治法2条2項)として許容されると判示した。本件支出についても、山口県の財政規模(年予算8000億円超)からして不当に高額ではなく、他県の合同葬を参考に相見積りを取るなどして算出過程も適正であり、予備費ではなく補正予算により県議会の議決を経ていることなどから、社会通念上儀礼の範囲内にあるとした。よって、知事Aが本件支出を阻止しなかったことは裁量権の逸脱・濫用には当たらず違法ではないと結論付けた。 なお、本件監査請求を不適法として却下した山口県監査委員の判断については、客観的には適法な監査請求であったとして、住民監査請求の前置要件は満たされていると判断した(最判平成10年12月18日参照)。