審決取消(特許)請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、被告(ベーリンガーインゲルハイム社)が特許権者である「経口又は非経口抗糖尿病薬による治療にもかかわらず不十分な血糖調節の患者の糖尿病の治療」と題する特許(本件特許)について、原告が無効審判請求をしたところ、特許庁が請求不成立の審決をしたため、原告がその取消しを求めた事案である。本件特許に係る発明は、アルファ-グルコシダーゼブロッカーによる治療にもかかわらず血糖調節が不十分な2型糖尿病患者に対し、DPP-4阻害剤である本件化合物(リナグリプチン)を1日5mgで経口投与し、アルファ-グルコシダーゼブロッカーと併用するという医薬用途発明である。 【争点】 ・実施可能要件(特許法36条4項1号)違反の有無 ・サポート要件(特許法36条6項1号)違反の有無 特に、本件明細書には本件化合物単剤による動物実験データの記載はあるが、本件化合物とアルファ-グルコシダーゼブロッカーの併用についての具体的な薬理試験結果が記載されていない点が問題となった。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を棄却した。 実施可能要件について、医薬用途発明においては、明細書に薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、出願時の技術常識に照らして当該物質が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるようにする必要があるとの一般論を示した。その上で、本件明細書には、本件化合物がDPP-4阻害剤であり1日5mgで24時間効果が持続すること、糖尿病治療では作用機序の異なる抗糖尿病薬を組み合わせることが頻繁に行われ、組合せの候補としてアルファ-グルコシダーゼブロッカーが挙げられることが記載されており、また、本件出願日当時、DPP-4阻害剤とアルファ-グルコシダーゼブロッカーは作用機序が異なる経口抗糖尿病薬として併用療法が広く行われていたという技術常識が存在したと認定した。さらに、両剤を併用した場合に著しい副作用や有害事象が発生することをうかがわせる事情も認められないとして、当業者は本件明細書の記載及び技術常識から両剤の併用により2型糖尿病に対する治療効果が向上すると理解できるとし、実施可能要件を充足すると判断した。 サポート要件についても、本件発明の課題はアルファ-グルコシダーゼブロッカーによる治療にもかかわらず血糖調節が不十分な患者の治療における使用のための本件化合物を含む医薬組成物を提供することにあるとした上で、当業者は明細書の記載及び技術常識に基づき当該課題を解決できると認識し得るとして、サポート要件を充足するとした。 原告の主張する、実施可能要件・サポート要件の判断において新規性・進歩性の観点(従来技術より優れた属性や効果の裏付け)を取り込むべきとの主張については、各要件は趣旨を異にする独立の要件であるとして排斥した。