審決取消(特許)請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告は、発明の名称を「DPP-4阻害剤(リナグリプチン)を任意で他の抗糖尿病薬と組み合わせて含む抗糖尿病薬」とする特許第6556767号(本件特許)の特許権者である。原告は、本件特許について無効審判を請求したが、特許庁は被告による訂正を認めた上で、請求項13、16以外の請求項に係る発明についての無効審判請求は成り立たないとの審決をした。本件は、原告が同審決の取消しを求めた事案である。 本件発明は、リナグリプチンであるDPP-4阻害剤を含み、スルホニル尿素等の第2(及び場合によって第3)の抗糖尿病薬と組み合わせて投与され、肝臓疾患に対してより高いリスクを示すか又は有する患者を対象とする、2型糖尿病等の治療・予防のための医薬組成物に関する発明である。 【争点】 ・本件特許に実施可能要件違反(特許法36条4項1号)があるか ・本件特許にサポート要件違反(同法36条6項1号)があるか (特に、本件明細書にリナグリプチンとスルホニル尿素の併用に関する薬理試験結果が記載されていない点が問題となった) 【判旨】 裁判所は、原告の請求を棄却した。 実施可能要件について、医薬用途発明においては、明細書に当該物質が当該用途に使用できることにつき薬理データ又はこれと同視できる事項を記載し、出願時の技術常識に照らして当業者が当該医薬として使用できることを理解できるようにする必要があると解するとした上、本件明細書には、リナグリプチンが食餌誘発性肥満モデルマウス及びob/obマウスに対しDPP-4活性を阻害し、肝臓脂肪含有量及びNAFLDを有意に低下させたとの薬理データが記載されていること、本件出願日当時、DPP-4阻害剤とスルホニル尿素は作用機序が異なり、作用機序の異なる経口抗糖尿病薬の併用療法では相加・相乗的な薬効増加が期待され血糖改善効果が報告されていたとの技術常識があったこと、リナグリプチンとスルホニル尿素の併用で著しい副作用等が発生することをうかがわせる事情はないことを認定し、当業者は本件明細書の記載及び技術常識に基づき、両剤併用により単独使用に比べ2型糖尿病等への治療効果が向上すると理解できるとして、実施可能要件を満たすとした。 原告が主張する、医薬用途発明は具体的薬理試験結果が必要との点、併用により禁忌となる場合がある点(甲31、32)、新規性・進歩性を伴う優れた属性等についての裏付けが必要との点については、いずれも採用できないとした。特に、実施可能要件と新規性・進歩性は趣旨を異にする独立の要件であり、実施可能要件の判断に新規性・進歩性の判断を取り込むべきではないとした。 サポート要件についても、本件明細書の記載及び技術常識から当業者は本件発明の課題(リナグリプチンとスルホニル尿素の併用による本件患者における血糖コントロール改善等)を解決できると認識し得るとし、サポート要件の判断に進歩性の判断を取り込むべきではないとして、原告の主張を排斥した。