行政処分取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 上告人は、北海道砂川市の鳥獣被害対策実施隊員(非常勤の公務員)として、市職員からヒグマ駆除の出動要請を受け、平成30年8月21日、甲地区においてライフル銃(本件ライフル銃)を発射してヒグマを駆除した(本件発射行為)。しかし、発射された弾丸はヒグマを貫通し、同じく隊員であるC隊員が把持していた猟銃の銃床に命中・貫通した。北海道公安委員会は、本件発射行為が「弾丸の到達するおそれのある建物に向かって銃猟をした」として鳥獣保護管理法38条3項・銃刀法10条2項に違反するとし、銃刀法11条1項1号に基づきライフル銃所持許可(本件許可)を取り消した(本件処分)。上告人は本件処分の取消しを求めて提訴した。 【争点】 ・本件発射行為が銃刀法10条2項・鳥獣保護管理法38条3項に違反するか ・本件許可取消処分が裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとして違法か(特に、鳥獣被害対策実施隊員としての公務的活動という特殊事情を考慮すべきか) 【判旨】 最高裁は原判決を破棄し、被上告人(北海道公安委員会側)の控訴を棄却した(上告人勝訴・第一審判決を支持)。 銃刀法11条1項柱書きは許可取消しを行政庁の裁量に委ねており、違反の態様・程度、社会への影響等を総合的に勘案する必要があるとした。その上で、本件発射行為は周辺の建物やC隊員等の生命・身体に危険を及ぼしたものであり、安土確保等に関する基本的判断を誤った可能性も否定できないと認定した。 しかし他方、本件発射行為に至る経緯として、①上告人は市からの出動要請を受けて現場に赴き、当初は逃がすことを提案したが、住民が強く要望しているとして市職員から駆除を依頼された、②避難誘導等の安全確保措置が講じられる中で発砲に至った、③ヒグマとの距離は約18メートルという緊迫した状況での短時間の判断であった、④C隊員に具体的な死傷結果は生じていない、という事情を重視した。 そして、本件許可の取消しは、上告人に酷であるのみならず、鳥獣被害対策実施隊員が有害鳥獣駆除活動を行うことや民間人が同隊員に任命されること自体をちゅうちょさせるなど、特措法(鳥獣被害防止特別措置法)の趣旨に沿わない事態を招くおそれがあると指摘。本件処分は重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の逸脱・濫用として違法であると判断した。 【補足意見】 裁判官林道晴(裁判官平木正洋同調)は、本件発射行為が個人的用務ではなく公務を実施する過程で行われたものであること、ヒグマの動静は完全に予測できず現場での臨機の判断を迫られることなど、本件特有の事情を考慮しない判断は衡平を失し社会観念上著しく妥当を欠くと補足。また、担い手のスキル維持・向上や保険対応等の充実した対策の実施を望むと述べた。 裁判官渡辺惠理子は、多数意見の結論に賛同しつつ、民間人が公益目的で害獣駆除に協力しているにもかかわらず一切公益性を考慮せず許可を取り消すことは過酷であり萎縮効果をもたらすと指摘。また、銃刀法において公益目的の発砲について取消処分か不問かの二者択一しかない現行制度の見直しや、過失の程度・置かれた状況を勘案する規定の検討を立法に期待する意見を述べた。