AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和7年5月上旬頃から同月15日までの間に覚醒剤を使用したとして、覚醒剤取締法違反で起訴された。被告人は遺失物届のために交番を訪れたところ、警察官が薬物使用の疑いを持って職務質問を開始し、所持品検査・身体検査・薬物使用の確認等を経て、最終的に強制採尿令状に基づく採尿が実施され、尿中から覚醒剤成分が検出された。 【争点】 ・強制採尿に先立つ一連の捜査手続の適法性(特に、交番内での留置き及び歩道上でしゃがみ込んだ被告人を警察官4名が担ぎ上げて交番内に運び込んだ行為の適法性) ・違法捜査により得られた証拠(捜索差押調書、鑑定書等)の証拠能力の有無 ・証拠排除された場合に、被告人の自白のみで有罪認定できるか(補強法則) 【判旨】 裁判所は、交番内での留置き行為については、①出入口ドア前に立ち塞がった行為は職務質問継続のため必要最小限度であり適法、②出入口ドアを複数の警察官が手で押さえた行為も捜査用車両到着までの約2分間にとどまり適法、③交番内での留置き時間も約52分間で長時間とはいえず適法と判断した。 しかし、歩道上でしゃがみ込んだ被告人を警察官4名が担ぎ上げて交番内に運び込んだ行為については、①歩行者等の交通に明らかな妨げが生じていたとはいえず緊急性・必要性が認め難いこと、②交通の妨げ解消が目的であれば交番内まで運び込む必要はないこと、③しゃがみ込んでから数秒で実行しており他のより穏当な手段を尽くしていないこと、④被告人の意思を完全に無視し制圧する極めて強度で手荒な態様であること、⑤衆人環視の中で担ぎ上げられることは被告人に羞恥心と屈辱感を与える行為であることから、相当性を欠き違法と判断した。 違法性の程度については、身体の自由を直接的に制限する極めて強度な有形力の行使であり、令状によらなければ許容されないものであって、重大な違法であると認定した。警察官らに令状主義を積極的に潜脱する意図はなかったものの、このような重大な違法行為が令状なく行われることは令状主義の精神を没却しかねず、将来の違法捜査抑止の見地から、強制採尿により得られた証拠(捜索差押調書、鑑定書等)の証拠能力を否定し、証拠排除した。 その結果、本件公訴事実を認定しうる証拠は被告人の自白のみとなり、補強証拠がないことから、刑事訴訟法336条により無罪を言い渡した。